何が変わったか
これまで「会話中は相手の目を見るのが大事」という社会規範は広く流通していたが、対面会話中に実際に相互の視線が交わっている時間がどれだけあるかについて、視線追跡装置を使った客観計測データは限定的だった。
カナダ・マギル大学の Florence Mayrand らが2023年に Royal Society Open Science で発表した研究は、初対面の参加者14名が向かい合って話す状況で視線追跡ゴーグルを装着し、対話時間中に相手の顔を見ていたのは12%、そのうち目と目が合っていたのは全体の3.5%にすぎなかったことを実測した。本研究はナゾロジー (kusuguru) が5月2日に日本語で再公開し、本邦読者に到達した。
社会にどんな影響があるか
主たる影響として、「目を見て話しなさい」という社会的規範と人間の自然な視線挙動の乖離が定量化された。コミュニケーション教育、面接指導、ビジネスマナー、教師から児童への指導といった文脈で、「常時アイコンタクト」を理想としてきた教え方に再考の必要性が出てくる。本研究によれば、相手の目を見続けることはむしろ自然な会話挙動から逸脱しており、奇妙な印象を与えかねない。アイコンタクトは「重要な瞬間に意図的に行う」シグナルとして機能している、という再フレーミングが可能になる。
一方で副作用として、本研究は 初対面ペア14名 (女性12男性2、平均20歳) という小規模・偏ったサンプルでの結果である。世代・文化・関係性 (家族 / 同僚 / 恋人) による視線パターンの差異は本研究では検証されておらず、「会話中アイコンタクトは3.5%」という数字を一般則として広く適用するには追加データが必要。社会不安障害や自閉スペクトラム症など視線挙動が異なる集団への臨床応用についても、本研究の知見が直接適用できるかは別問題。
ニュースの詳細
研究はマギル大学の Florence Mayrand らが Royal Society Open Science (2023) に発表したもの。実験では知り合いではない参加者14名 (女性12人、男性2人、平均20歳) が二人一組になり、「砂漠や極寒の地で生き残るのに役立つアイテム (コンパス、手斧、チョコレートバー等) のランク付け」という共通課題について向かい合って話し合った。視線検出ゴーグルで視線の動き、相手の目・口を見つめる頻度を分析。
結果、会話時間のうち相手の顔を見ているのは12%、相互アイコンタクトはわずか3.5%。視線の大半は相手の口、もしくは相手から完全に外れていた。ただし「稀なアイコンタクト」には強い社会的効果があり、視線が交わった後に参加者が相手の視線を追う「視線追従」 (gaze following) 行動が高い確率で発生した。視線追従は、相手が何に注意を向けているかを理解し共感する手がかりであり、人と人の関係性を深める相互作用と位置付けられる。
子供たちが親や大人の視線を追って情報・社会規範を学習する経路としても、アイコンタクト → 視線追従の連鎖は重要であることが指摘されている。記事自体は2023年11月に nazology が初出公開した内容を、5月2日に再公開したもの。