何が変わったか
これまでは、Anthropic の Dario Amodei が「新卒の 50% がAIに代替される」と発言するなど、AI による大量失業予測がテック業界 CEO 層の主流ナラティブとして拡散していた。社会全体の議論もその前提で進んでいた。
Special Competitive Studies Project のインタビューで、Nvidia CEO の Jensen Huang は「CEO になった途端、神の複合体 (god complex) を抱いて何でも知っているつもりになる」と痛烈に批判し、AI 失業ナラティブを覆す立場を鮮明にした。Huang は AI が過去数年で 50万以上の新規雇用を生み出したと指摘し、Nvidia 自身もエンジニアをかつてない規模で採用していると述べた。
社会にどんな影響があるか
主たる影響として、業界トップから AI 楽観論の体系的な反論が出たことで、若者の進路選択に対する萎縮効果が緩和される。Huang が懸念したのは「無責任な未来予測が次世代を有望な職業から遠ざけ、結果として社会的に必要な職種で人材不足を招く」という二次被害であり、企業の人材戦略やキャリア教育の議論に直接影響する。
一方で副作用として、Nvidia は AI ハードウェアの最大の受益者であり、Huang の楽観論にはポジショントークの色が当然にじむ。AI による職務再編が一切ないと受け取られると、本来必要なリスキリング投資が遅れる懸念もある。
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Huang の論理は「職務 (job) と職務目的 (what it’s for) を切り分けよ」というものだ。コードを書くのはタスクだがそれはソフトウェアエンジニアの目的ではなく、目的は問題解決と新しいものを作ることである。放射線科医の目的は疾患の診断であり、画像読影はその一部にすぎない。
Huang は Anthropic の Amodei による「新卒職の 50% がAIで消える」予測を名指しで否定し、過剰確信な未来予測こそが守るべき労働者を傷つけると断じた。「コードを書くというタスクに固執すれば仕事は消えるが、問題解決という目的に立ち返れば仕事は増える」というフレーミングである。
過去の発言とも整合する。Huang は4月 20 日にも「AI エージェントは仕事を奪うのではなく、口うるさい上司のようにあなたを忙しくさせる」と発言していた。今回の god complex 批判は、それを敵対的かつ具体名を伴う形で展開したものといえる。