何が変わったか
これまでの都市鳥類学では、鳥が人間からどの距離で逃げ出すか (FID: Flight Initiation Distance, 逃避開始距離) は鳥種・群れサイズ・周囲の植生といった要因で語られ、近づく「人間の側」の属性差は副次的に扱われてきた。
イタリア・トリノ大学の Federico Morelli 博士らが People and Nature 誌 (doi:10.1002/pan3.70226) に発表した最新研究は、身長・服装を揃えた男女が都市の鳥に近づく対照実験を欧州5カ国 (チェコ・フランス・ドイツ・ポーランド・スペイン) で実施し、37種2,500件超の観察で「鳥は女性に対して男性より平均約1メートル遠い距離で逃げ出す」傾向を一貫して検出した。
社会にどんな影響があるか
主たる影響として、都市生態系の保全・観察設計に「人間の性別」という新しい変数が加わる。野鳥観察ツアー・市街地のバードフィーディング場・都市公園の動線設計などで、女性参加者が多い場合は鳥との接近距離が構造的に長くなる前提で計画する必要が出てくる。生物多様性モニタリングで FID を指標に用いる場合、調査員の性別構成を統制しないとデータがバイアスを受ける。
一方で副作用として、原因がまだ特定されていない (歩き方・声域・ホルモン由来のにおい・衣服から放散する化学物質など仮説段階) ため、安易な「女性は鳥に嫌われる」という単純化が広がるリスクがある。論文著者自身が “We really don’t know why” と認めており、結論を急ぐと誤った因果ストーリーが流通する。
ニュースの詳細
調査はカササギ・ハト・スズメ・シジュウカラ・クロウタドリなど都市環境に適応した37種を対象に、欧州5カ国の都市公園で実施された。実験参加者は1秒1歩のペースでまっすぐ鳥に近づき、逃げ出した瞬間の距離を記録するプロトコル。男女ペアは身長を揃え、衣服も白・グレー・黒の地味色で統一し、髪型差を帽子で消すなど「視覚的な人間像」を最小化した上で性別の効果を抽出している。
結果は群れサイズや種の警戒度 (早く逃げるカササギから粘るハトまで) を問わず一貫して女性に対して FID が長く、平均差は約1メートル。Morelli 博士は「これがおそらく研究で最も興味深い部分」と述べる一方、原因については未解明とコメントしている。論文は besjournals.onlinelibrary.wiley.com (Wiley の英国生態学会誌プラットフォーム) でオープンアクセス公開。