Shoji Times

#2026-05-05
20 sources → 14 news printed at 2026/05/06
science
イスラエル考古学局、ローマ起源とされたドロマイト漆喰技術が新石器時代モツァ遺跡で8000年前から存在と判明

イスラエル考古学局、ローマ起源とされたドロマイト漆喰技術が新石器時代モツァ遺跡で8000年前から存在と判明

「土器以前」の素朴な暮らしという通説が崩れ、新石器時代の建築工学レベルが大幅に上方修正される

イスラエル考古学局、ローマ起源とされたドロマイト漆喰技術が新石器時代モツァ遺跡で8000年前から存在と判明


何が変わったか

これまでドロマイト鉱物を焼成して結合材として使う漆喰技術は、ローマ時代に発明されたとする説が定説だった。新石器時代B期 (紀元前7100〜6700年頃) は土器が一般化する前の段階のため、建築技術も「素朴で混ぜ物程度」という通念で語られてきた。

イスラエル考古学局 (IAA) のチームは、エルサレム近郊のモツァ遺跡から発掘された100以上の漆喰床を分析し、ローマ時代に発明されたとされていたドロマイト焼成漆喰技術が、実際には8000年前 (新石器時代B期) のモツァ遺跡ですでに本格的に使われていたことを発見した。 ドロマイトは方解石より細かな温度管理を要する鉱物で、新石器時代の人々が石種を見分けて性質に応じた建築材料を作り分けていた可能性が示された。

モツァ遺跡の漆喰床
モツァ遺跡からは100以上の漆喰床が確認され、その中には赤い顔料で塗られた保存状態のよい床も含まれていた。

社会にどんな影響があるか

主たる影響として、「土器以前 = 技術が未熟」という新石器時代観に大きな修正が必要になる。ドロマイト焼成は石灰岩 (方解石) からの石灰漆喰製造より高度な温度管理を要する工程で、モツァ住民が単に石を砕いて混ぜるレベルではなく、化学的工程を意識して材料を選別・処理していたと考えられる。考古学・建築史の標準テキストの一部はアップデートが必要となる。

一方で副作用として、ローマ建築技術史の系譜が「ローマで発明」から「過去の知見を再発見・体系化」へとニュアンスが変わる。新石器時代から古代ローマまでの中間期に、この技術が連続的に伝承されていたのか、いったん失われて再発明されたのかという新たな問いが立つ。

ニュースの詳細

モツァ遺跡は紀元前7100〜6700年頃の新石器時代B期 (PPNB; 先土器新石器時代B期) に栄えた大規模集落で、エルサレム近郊に位置する。発掘調査では100以上の漆喰床が確認され、その中には赤い顔料で塗られた保存状態の良い床も含まれていた。

漆喰は石灰岩を高温で焼き、水を加えて消化し、空気中の二酸化炭素と反応させて硬化させる「石灰サイクル」と呼ばれる化学的工程で作られる。一般的な石灰漆喰は石灰岩中の方解石を利用するが、モツァの漆喰床にはそれとは別の鉱物 — ドロマイト — も使われていた。ドロマイトを焼成して漆喰にする工程は方解石より難しく、より細かな温度管理や条件の制御が必要になる。

これまでドロマイト焼成漆喰の最古の証拠はローマ時代とされていたが、今回の分析でモツァの人々がドロマイトを単なる混ぜ物ではなく、焼成して結合材 (本体) として使っていた可能性が示された。新石器時代の人々が石の種類を見分け、それぞれの性質に合わせて建築材料を作り分けていたことを示唆する。

キーワード解説

ドロマイト (Dolomite) とは、炭酸カルシウム・マグネシウム CaMg(CO3)2 を主成分とする鉱物および岩石。方解石 (CaCO3) と組成が異なり、酸への反応性が低く、焼成にもより高い温度・精密な条件管理を必要とする。建築では現代でも研磨材・耐火材・骨材として使われる。

石灰サイクル (Lime cycle) とは、石灰岩 (CaCO3) を高温で焼成して生石灰 (CaO) にし、水を加えて消石灰 (Ca(OH)2) に変え、これが空気中の二酸化炭素と反応してまた炭酸カルシウムに戻るサイクル。漆喰やコンクリートの硬化原理であり、人類が発明した最古の化学プロセスの一つ。

先土器新石器時代B期 (PPNB) とは、紀元前7500〜6500年頃のレバント地方の文化期で、農耕・定住・大規模集落・粘土壁建築が一斉に進んだ時期。土器の本格的な使用はまだ始まっていない段階だが、漆喰床・石器の精緻化・初期の宗教施設など、技術と社会組織が大きく進展した「土器以前の高度文明」期として位置付けられる。

source: ナゾロジー