Shoji Times

#2026-05-07
20 sources → 24 news printed at 2026/05/09
science
ペンギンの直立歩行を支える「謎の筋肉」が140年ぶりに正体特定、海鳥が陸上で立てる構造の鍵

ペンギンの直立歩行を支える「謎の筋肉」が140年ぶりに正体特定、海鳥が陸上で立てる構造の鍵

1883 年から名前すらない曖昧な存在だったペンギン特有の筋肉が、最新解剖学で同定され、海中遊泳と陸上歩行を両立する独自の解剖学的設計が明らかになる

ペンギンの直立歩行を支える「謎の筋肉」が 140 年ぶりに正体特定


何が変わったか

これまで研究者の間で「ペンギンの胸骨末端から左右の脛足根骨に伸びる謎の筋肉」は、1883 年にチャレンジャー号探検航海の標本を解剖したワトソンが指摘して以来、腹斜筋の枝なのか、内側下腿屈筋の浅部なのか、外腹斜筋なのか名前すら定まらないまま 100 年以上放置されていた。

サンディエゴのシーワールドが提供したマカロニペンギン 2 羽 (オス 16 歳・メス 36 歳) を最新の保存技術と造影剤で解剖した結果、 この筋肉が独立した特異的な構造であることが同定された。ペンギンは「永遠にスクワットの底の姿勢で生きている」 (本当の膝が体内で常に深く曲がっている) ため陸上歩行に圧倒的に不利だが、この謎の筋肉が直立歩行を可能にする鍵である可能性が示唆される。

社会にどんな影響があるか

主たる影響として、海鳥の進化的適応に関する解剖学的理解が一段階深化する。ペンギンは水中遊泳のために脚を体に収納する形態 (本当の膝を体内に隠して常に曲げる) を進化させたが、その姿勢で陸上歩行を可能にする「補助筋肉」を併せ持つという、複数機能を矛盾なく実装した進化の精妙さを示す。比較解剖学・古生物学・運動生理学の各領域に波及する成果。

副作用として、本研究は希少標本 (野生では考えられない 36 歳の長寿個体) に依存しており、種内変異・性差・年齢差の検証はまだ十分でない。マカロニペンギン以外の 17 種への一般化、野生個体での確認は今後の課題。

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普通の鳥 (スズメ、ニワトリ) では、私たちが見る「脚」は実は足首から下で、本当の膝は体に近い位置で羽毛に隠れる。ペンギンはこれを更に極端化し、私たちが「ペンギンの膝」と思う場所は実は足首に相当する関節であり、本当の膝は体内で常に深く曲がっている。これは水中遊泳には水抵抗最小化で有利だが、陸上歩行には圧倒的に不利。

1883 年にチャレンジャー号探検航海の標本を解剖したイギリスの解剖学者ワトソンが、胸骨末端から左右の脛足根骨に伸びる「他の鳥にない筋肉」を発見したが、その後の研究は「腹斜筋の枝」「内側下腿屈筋の浅部」「外腹斜筋」と諸説があり、定まらないまま 100 年以上経過した。

転機は、シーワールドが医療上の理由で人道的に安楽死されたマカロニペンギン 2 羽 (オス 16 歳・4.48 kg、メス 36 歳・3.16 kg) を研究チームに寄贈したこと。メスの 36 歳は野生では考えられない長寿。研究者たちは最新の保存技術と造影剤で標本を処理し、起始 (筋肉が始まる場所)、停止 (終わる場所)、重さを記録しながら徹底的に解剖し、謎の筋肉の正体を特定した。

キーワード解説

脛足根骨 (tibiotarsus) とは、鳥類の脚に見られる骨で、哺乳類でいう脛骨 (tibia) と一部の足根骨 (tarsus) が癒合して 1 本の長骨になったもの。本記事の「ペンギンの謎の筋肉」が停止する部位として登場し、鳥類進化の独自構造を理解する鍵となる。

起始・停止 (origin and insertion) とは、骨格筋が骨に付着する 2 点を指す解剖学用語。起始は通常、運動時に動かない側の付着点、停止は動く側の付着点。筋肉の機能 (どの関節を動かすか) を特定する基本情報で、本研究もこれを精密測定して謎の筋肉の機能を推定した。

チャレンジャー号探検航海 とは、イギリス海軍の HMS Challenger 号が 1872〜1876 年に世界周航で行った海洋科学調査。深海生物・海洋地形・海水組成を網羅的に調査し、近代海洋学の出発点となった。本記事の文脈では、ペンギン標本もこの探検で収集されたものから研究が始まった。

source: ナゾロジー