Shoji Times

#2026-05-07
20 sources → 24 news printed at 2026/05/09
science
PNAS、新原生代スターティアン氷期に「氷期-温室サイクル」が繰り返された可能性を提示、5,600万年継続の謎を説明

PNAS、新原生代スターティアン氷期に「氷期-温室サイクル」が繰り返された可能性を提示、5,600万年継続の謎を説明

地球が完全凍結に近い状態で 5,600 万年も生命を維持できた謎が、巨大火成岩区の風化サイクルで説明可能になり、惑星規模の長期気候変動モデルが再構築される

PNAS、新原生代スターティアン氷期に「氷期-温室サイクル」が繰り返された可能性を提示


何が変わったか

これまで約 7 億 1700 万〜6 億 4300 万年前のスターティアン氷期は、「スノーボールアース (地球全凍結)」または「スラッシュボールアース (熱帯にわずかに液体水が残る)」の 2 つのシナリオで説明されてきたが、どちらも「氷期が約 5,600 万年も続いた」事実と矛盾していた。

ハーバード大学の研究チームが PNAS に発表した気候モデルでは、 フランクリン巨大火成岩岩石区 (FLIP) の玄武岩風化と火山性 CO₂ 放出が交互に作用する周期サイクルが、5,600 万年にわたるスターティアン氷期の長期持続を説明する。FLIP の風化で大気 CO₂ が消費されると氷期に入り、風化が止まると CO₂ が蓄積して間氷期が訪れる。FLIP の未風化玄武岩が枯渇するまでこのサイクルが続いた、という仮説。

FLIP 風化サイクルの概念図
巨大火成岩区の玄武岩が風化と凍結を繰り返し、5,600 万年にわたる氷期-温室サイクルを生んだ可能性。

社会にどんな影響があるか

主たる影響として、惑星規模の長期気候変動モデルに「玄武岩風化と凍結の交互サイクル」という新しい安定状態の存在が認められる。スノーボールアース仮説は地球史だけでなく、火星・金星のような他惑星の古気候、そして太陽系外惑星の居住可能性 (ハビタブル) 議論にも影響する。「凍結状態が長期安定化する」メカニズムの理解は、太陽系外惑星探査の対象惑星評価フレームワークを更新する。

副作用として、「炭酸塩-ケイ酸塩サイクルが氷期で停止する」という従来の単純化された理解が、より複雑な動的モデルに置き換わる。地球システムのフィードバックループが想定より柔軟であることが分かるほど、現代の人為的気候変動の予測モデルにおいても、地質学的時間スケールでの安定状態の評価が再考を迫られる側面が出てくる。

ニュースの詳細

スターティアン氷期は新原生代中期 (10 億〜5 億 4200 万年前) に約 5,600 万年続いた地球規模の氷期。完全凍結のスノーボールアース仮説と、熱帯に薄氷を残すスラッシュボールアース仮説が競合してきたが、両者ともに「5,600 万年継続」「酸素枯渇による生命絶滅回避」という観測事実を説明できなかった。

ハーバード大の研究チームは、地球気候・炭素循環・酸素循環をシミュレートし、火山活動・ケイ酸塩風化速度・FLIP の規模をパラメータとしてテストした。FLIP (フランクリン巨大火成岩岩石区) はカナダ北極圏に分布する大規模な火成岩地域で、約 7 億 1700 万年前に形成された (スターティアン期開始と 100〜200 万年以内で同期)。

モデルが示したサイクル: (1) FLIP の新鮮な玄武岩風化が大気 CO₂ を吸収し、地球規模の氷期を引き起こす、(2) 氷期で炭酸塩-ケイ酸塩サイクルが停止し、火山性 CO₂ が蓄積、(3) 温暖化で氷河が溶けて再び玄武岩風化が再開、(4) FLIP の未風化玄武岩が枯渇するまでサイクルが繰り返される。研究チームは「極端な気候間を行き来するサイクルが、5,600 万年スケールで持続した」と結論した。本モデルはあくまで単純化されたもので考えうる全プロセスを網羅していないが、複数の長年の矛盾点を説明する初の枠組みとなる。

キーワード解説

スノーボールアース とは、地球全体が熱帯地域も含めて氷に覆われた状態を指す古気候仮説。新原生代の 2 度の氷期 (スターティアン氷期、マリノアン氷期) が代表例。地球が一度凍結したら太陽光反射率の上昇で永続的に凍るはずという理論的逆説 (アイスアルベド・パラドックス) を、火山性 CO₂ の蓄積が破ったとされる。

炭酸塩-ケイ酸塩サイクル とは、ケイ酸塩岩が雨水・CO₂ と反応して炭酸塩を生成し、大気から CO₂ を取り除く地球規模の化学風化プロセス。長期気候のサーモスタット機構として 100 万年スケールで作用するが、氷期になると風化が停止して機構が破綻する。

フランクリン巨大火成岩岩石区 (FLIP) とは、カナダ北極圏に分布する大規模な火成岩地域で、約 7 億 1700 万年前に形成された巨大火成岩区 (LIP, Large Igneous Province) の一つ。新鮮な玄武岩は CO₂ を吸収する強力な風化作用を持ち、本研究はこれがスターティアン氷期の引き金と循環エンジンの両方を担ったとする。

新原生代 とは、約 10 億〜5 億 4200 万年前の地質時代区分で、原生代の最終区分。スノーボールアースの 2 度の発生、エディアカラ生物群の出現、カンブリア爆発の前段階という地球生命史の重要転換点を含む。

source: GIGAZINE , PNAS (原論文) , Phys.org (英語報道)