何が変わったか
これまで加齢性心疾患・代謝性疾患の根本治療として、ミトコンドリアの量と機能を同時に改善する有効な手法は限られていた。MITOL (Mitochondrial Ubiquitin Ligase) と呼ばれる酵素はミトコンドリア品質管理に重要であり、加齢に伴う遺伝子発現量の低下が老化表現型と関連することが知られていたが、これを活用した薬剤探索手法は未確立だった。
学習院大学の研究グループが熊本大・日本女子大・東京都健康長寿医療センター・東京大・自治医科大・東京薬科大・青山学院大ら共同研究チームとともに、MITOL を指標としたスクリーニングで、ミトコンドリアの数を増やし機能を高める植物由来の新規化合物「マイトルビン」を同定し、改良型マイトルビンの投与で老齢マウスの心機能低下を顕著に改善、肥満糖尿病マウスの生存期間中央値を約 40% 延長することに成功した (npj Aging 掲載、doi:10.1038/s41514-026-00366-w)。
社会にどんな影響があるか
ミトコンドリア標的の加齢介入薬が「概念」から「具体的化合物」へと進み、心不全・糖尿病・サルコペニアなど加齢性疾患群に対する横断的治療戦略の実現可能性が示された。MITOL を品質管理マーカーとして用いるスクリーニングは、他のミトコンドリア機能改善剤候補の探索にも応用が広がる。
副作用として、植物由来天然物の創薬は構造最適化と量産化に時間とコストがかかる。マウスでの効果がヒト臨床試験で再現されるかは未知数で、加齢性疾患領域はプラセボ効果やサンプルバイアスが大きいため、慎重な臨床試験設計が必要。
俺にどんな影響があるか
PRES の産学連携サービスでは、本研究は「複数大学が組んで創薬シーズを開発する」典型例で、PRES がレンタル DX 推進室で支援する産学連携協業の参照モデルとなる。創薬ベンチャーや製薬企業との橋渡し、化合物の量産・最適化のための共同研究契約設計など、PRES のビジネスドメインに直結する事例。
ニュースの詳細
研究の流れ:
- スクリーニング指標: MITOL (Mitochondrial Ubiquitin Ligase)。加齢に伴い遺伝子発現量が低下、機能低下が培養細胞・マウスに老化表現型をもたらす
- 同定化合物: 植物由来代謝産物「マイトルビン」(berberrubine 系)
- 改良: 化学修飾により水溶性を向上させた改良型マイトルビン
検証結果:
- 培養細胞・マウスでミトコンドリア機能を高める
- 老齢マウスの心機能低下を顕著に改善
- 高脂肪食を負荷した肥満糖尿病マウスに改良型マイトルビンを投与: 生存期間中央値が約 40% 延長
研究チーム: 学習院大学、熊本大学、日本女子大学、東京都健康長寿医療センター、東京大学、自治医科大学、東京薬科大学、青山学院大学
論文: Mitorubin, berberrubine-based compounds that improve mitochondrial function, exhibit cardioprotective effects against age-related cardiac dysfunction (npj Aging, doi:10.1038/s41514-026-00366-w)
キーワード解説
ミトコンドリア (Mitochondrion) とは、真核細胞のエネルギー生成オルガネラ。ATP (アデノシン三リン酸) を産生する電子伝達系を持ち、細胞のエネルギー代謝の中核を担う。加齢に伴い量と機能が低下し、心疾患・神経変性疾患・糖尿病などの加齢性疾患の発症と関連する。
MITOL (Mitochondrial Ubiquitin Ligase) とは、ミトコンドリア外膜に局在する E3 ユビキチンリガーゼ。損傷したミトコンドリア成分のマーキングと品質管理を担う。日本の研究者 (柳茂氏ら) が同定・命名したことで知られる、ミトコンドリア品質管理経路の主要因子。
Berberrubine (ベルベルビン) とは、ベルベリン (Berberine) という天然アルカロイドの代謝産物。ベルベリンは黄連 (オウレン) などの漢方薬に含まれ、抗菌・抗炎症作用が知られる。マイトルビンはこの berberrubine を骨格として持つ化合物群。
Sarcopenia (サルコペニア) とは、加齢に伴う骨格筋量と筋力の減少。ミトコンドリア機能低下が筋細胞のエネルギー供給不足を招き、筋力低下・転倒リスクを増す。ミトコンドリア機能改善はサルコペニア予防の有望な戦略として研究されている。