Shoji Times

#2026-05-11
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science
ゴレム・グラード島のヘルマンリクガメ、捕食者ゼロの「楽園」で10年データから個体群異常を発見

ゴレム・グラード島のヘルマンリクガメ、捕食者ゼロの「楽園」で10年データから個体群異常を発見

「天敵を排除すれば動物は守れる」という素朴な保全観が崩れ、捕食圧の不在自体が個体群の長期健全性を脅かす可能性が示される

北マケドニア・セルビア・仏の国際研究チーム、ゴレム・グラード島のヘルマンリクガメで記録上最高密度ながら個体群が衰退する逆説を10年データから報告


何が変わったか

これまでの保全生物学では「天敵を排除し、開発を止め、環境を守れば動物は安全に暮らせる」という直感が、保全戦略の出発点として広く共有されてきた。

プレスパ湖に浮かぶ 18 ヘクタールの小さな島ゴレム・グラードは、その理想を体現する条件を備えていた。テーブル状の地形で頂上に森と平原、周囲を 20-30 メートルの崖が囲み、イノシシ・犬・ネズミ・人間が存在せず、リクガメ成体を襲う捕食者がゼロ。北マケドニア・セルビア・フランスの国際研究チームが 2008 年から続けた 10 年以上のデータ蓄積で、この「理想的」な島のヘルマンリクガメが、記録上最高クラスの 1 ヘクタール当たり 46-64 匹の密度に達しながら、個体群としては不可解な異常を示していることが明らかになった

社会にどんな影響があるか

主たる影響として、「天敵を排除すれば守れる」という保全実践の直感が、長期スケールでは逆に個体群の健全性を損なう可能性が示される。捕食圧の不在は短期的には個体数を増やすが、年齢構成・繁殖成功率・遺伝的多様性など、保全の長期目標に関わる指標を悪化させる構造的リスクが内包される可能性がある。

副作用として、保護区設計の評価指標に「個体数密度」だけではなく「個体群の長期動態」を組み込む必要が出てくる。短期的な数字での成功が、長期では破綻の前兆になり得る点は、政策設計者にとって扱いづらい論点を増やす。

ニュースの詳細

ゴレム・グラード島は地中海性気候に位置し、爬虫類の生息環境としては理想的条件を満たす。リクガメたちは朝日を浴び、牧草地で草を食み、オスは交尾時に甲高い鳴き声を上げる。研究チームは 2008 年に調査を開始した時点では「繁栄する個体群」と評価していたが、10 年以上のモニタリングデータから「楽園」のはずの環境で個体群の何が狂い始めたかを記述した報告が今回の論文となった。

キーワード解説

ヘルマンリクガメ (Testudo hermanni) とは、地中海地域に分布する陸生のリクガメ。CITES (ワシントン条約) 附属書 II に掲載される国際取引規制種で、生息地破壊とペット用密猟が主な脅威。野生個体数は減少傾向にあり、保全研究の対象として頻繁に取り上げられる。

個体群動態 とは、ある集団の個体数・年齢構成・性比・繁殖率・死亡率が時間と空間でどう変化するかを記述する生態学の中核領域。捕食者圧の有無、競争、移出入、環境変動などの要因が複雑に絡む。

source: ナゾロジー