Shoji Times

#2026-05-11
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science
東京理科大、物質と反物質のペア「ポジトロニウム」の結晶回折実験を実証

東京理科大、物質と反物質のペア「ポジトロニウム」の結晶回折実験を実証

「あらゆる粒子は波として振る舞う」というド・ブロイ仮説の最後の空欄が埋まり、物質-反物質複合体まで量子力学の枠組みが拡張される

東京理科大グループ、電子と陽電子の束縛状態ポジトロニウムが結晶回折で波として振る舞うことを世界で初めて実証


何が変わったか

1924 年にド・ブロイが「あらゆる粒子は波としての性質を持つ」と提唱して以来、電子・中性子・ヘリウム原子・フラーレン (サッカーボール型分子)・反物質である陽電子まで、波としての振る舞いが次々と実証されてきた。1980 年には陽電子だけの結晶回折、2019 年には陽電子だけの干渉計実験が達成されていた。

しかし「物質と反物質のペア」という組み合わせだけが、長らく検証されないまま残っていた。東京理科大の永島康介氏らのグループが、電子と陽電子が束縛されたポジトロニウムが結晶を通過する際に波として振る舞うことを世界で初めて実験的に確認した。結果は Nature Communications 誌に掲載された。

社会にどんな影響があるか

主たる影響として、「あらゆる粒子は波として振る舞う」というド・ブロイ仮説の検証空欄が物質-反物質複合体まで埋まり、量子力学の基本原理の普遍性が一段強固になる

副作用として、これまで観測が困難とされてきたポジトロニウムの量子状態を干渉実験で測定するという新しい実験手法が開ける。重力の量子効果や CPT 対称性の精密検証など、反物質を用いた基礎物理学実験の選択肢が広がる。

ニュースの詳細

ポジトロニウムは、電子 (物質) と陽電子 (反物質) が互いの電荷に引かれて結びつき、共通の重心の周りを回り合うペアで、束の間の存在として 142 ナノ秒 (10 億分の 142 秒、長寿命タイプ) で対消滅により消える。電子の雲と陽電子の雲は束縛中も重なり合い、その重なり領域で量子力学的な対消滅反応経路が常時開いている状態となる。今回の実験では、この超短時間の存在中に、ポジトロニウムが原子核と複数電子からなる原子や、より多くの原子核・電子で構成される巨大分子と同じく、一つの「波」として結晶格子と相互作用することを確認した。

キーワード解説

ポジトロニウム とは、電子 (e⁻) と陽電子 (e⁺) が束縛された原子状の中性粒子。スピン構成により短寿命のパラポジトロニウム (約 125 ピコ秒、γ 線 2 本に対消滅) と長寿命のオルトポジトロニウム (約 142 ナノ秒、γ 線 3 本に対消滅) に分かれる。本実験では長寿命タイプが使用された。

ド・ブロイ波 (物質波) とは、1924 年にフランスの物理学者 Louis de Broglie が提唱した「あらゆる物質粒子は波としての性質を持つ」とする概念。粒子の運動量 p に対し波長 λ = h/p (h はプランク定数) で定義される。原子・分子・反物質まで実証が積み重ねられ、量子力学の基本前提を成す。

結晶回折 とは、規則的な原子配列を持つ結晶に粒子や電磁波を入射した際、結晶格子の周期構造が「複数のスリット」のように働き、波として干渉して回折パターンを示す現象。1927 年の Davisson・Germer 実験で電子で初めて確認され、物質波の存在証明の古典的手法となった。

source: ナゾロジー