何が変わったか
これまで罵り言葉を多用する人は「教養がない」「言葉を知らない」「自制心がない」という印象で評価されてきた。背景には、悪口は適切な表現が思いつかないときの「逃げ道」であるとする語彙不足仮説があった。
研究チームが言語流暢性課題 (制限時間内に指定された条件に合う単語をできるだけ多く挙げてもらうテスト) を用いて実証したところ、普通の単語を多く挙げられる人ほど動物名も多く挙げられ、さらにタブー語 (罵り言葉) も多く挙げられる傾向が確認された。
社会にどんな影響があるか
主たる影響として、「罵り言葉の多さ=語彙が貧しい」という日常的な偏見が定量データで反証される。むしろ罵り言葉を多く知っていることは、心の中の言葉の引き出しが広く、そこから素早く取り出せる認知能力と結びついている。職場や教育現場での「言葉遣い」評価の根拠の一部が問い直されうる。
副作用として、本研究は「使用頻度」ではなく「想起可能性」を測定している点に注意が必要となる。日常的に罵り言葉を「使う」人と、罵り言葉を「多く知っているが使わない」人は別の集団であり、社会的場面での評価論はこの差異まで反映する必要がある。
ニュースの詳細
最初の実験では 43 人の大学生が個室で録音機に向かって回答した。参加者は F・A・S の各文字で始まる単語を 1 分ずつ、その後に動物名とタブー語を同じ条件で挙げた。人間の発話メカニズムを考えれば、単語が出てこないときに人がすぐ罵り言葉を出すわけではなく、多くの場合「ええと」「あの」などのつなぎ表現を使ったり沈黙したりするため、語彙不足仮説の前提自体が弱いという立論。
キーワード解説
言語流暢性課題 (verbal fluency task) とは、神経心理学・認知心理学で使われる標準的テスト。「F で始まる単語をできるだけ多く挙げてください」のように指定条件下で 1 分間に想起できた単語数を数える。語彙の豊富さ、想起速度、ワーキングメモリ、実行機能などを総合的に反映する指標として広く用いられる。