何が変わったか
これまで哺乳類は損傷部位で線維芽細胞がコラーゲンを作り瘢痕組織を形成するのが基本反応で、サンショウウオなどの再生動物が示す「芽体」(失われた構造を作り直す一時的な細胞集団) の形成は起こらないと考えられてきた。
研究チームは生後 3 日のマウスの後ろ足の指を第 2 指節骨で切断し、傷が閉じた 4 日後に線維芽細胞増殖因子 2 (FGF2) を投与した実験で、本来哺乳類では起こらないはずの「芽体に似た細胞集団」と芽体形成・パターン形成関連遺伝子の発現を傷口に誘導することに成功した。
社会にどんな影響があるか
主たる影響として、「瘢痕反応で傷を閉じる」と「再生反応で組織を作り直す」が哺乳類でも同じ細胞種から分岐し得る可能性が示され、再生医療の標的が幹細胞移植から「内在線維芽細胞の方向転換」へと拡張する。糖尿病性潰瘍・熱傷・手指外傷などの長年の臨床課題に対し、内在細胞の利用による低侵襲アプローチが見える。
副作用として、FGF2 単独では足指の骨格構造を完全には作り直せず、「再生のための材料置き場はできたが何をどう作るかの指示が足りない」状態に留まる。完全再生にはパターン形成シグナルの追加投与が必要で、臨床応用までの道のりはまだ長い。
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研究では、傷が閉じた 4 日後という「通常の治癒反応がいったん進んでから別方向に変える」タイミングでの FGF2 投与が鍵となった。研究チームは細胞が「瘢痕を作る方向」と「芽体を作る方向」のどちらにも進み得る状態として実験を設計。FGF2 は線維芽細胞を活性化し芽体に似た細胞集団を形成。同時に芽体形成・パターン形成に関わる遺伝子の発現が誘導された。ただし FGF2 だけでは足指の骨格構造を十分に作り直すことはできず、追加シグナル群の探索が次の研究課題となる。
キーワード解説
芽体 (blastema) とは、サンショウウオや幼生ガエルなどの再生能力を持つ動物が、四肢などの構造を再生する際に傷口に形成する一時的な細胞集団。失われた組織のパターンを再構築する「再生工事現場」として機能し、哺乳類では通常見られないため再生医療のキー概念。
線維芽細胞増殖因子 (FGF) とは、線維芽細胞をはじめとする多様な細胞の増殖・分化を制御する成長因子ファミリー。FGF2 (basic FGF) は創傷治癒・血管新生・組織再生に関与し、近年は再生医療の鍵分子として研究が進んでいる。