何が変わったか
これまでイエローストーン国立公園のワタリガラスは、オオカミが大型獣を倒すとすぐに集まることから、オオカミを直接追跡しているとされてきた。死骸の一部にありつける効率的な餌探索戦略として、研究者間でも自然な仮説として共有されてきた。
今回研究チームは イエローストーンで 69 羽のワタリガラスに GPS 追跡装置を装着し、すでに追跡されていた 20 頭のオオカミと 11 頭のピューマと 2 年半にわたって移動経路を比較した結果、ワタリガラスが長時間オオカミを追跡した例はほぼ 1 回しか確認できなかった。それにもかかわらず、観察されたオオカミの獲物のほぼ半数で、ワタリガラスが死後 7 日以内に到達していた。
社会にどんな影響があるか
「カラスが捕食者を尾行する」という直感的な仮説が、長期 GPS データという定量的証拠で否定された。古典的な行動生態学的解釈の再評価が必要となり、ワタリガラスがどのように獲物の位置情報を得ているか (聴覚?匂い?社会的情報共有?地形学習?) という新しい問いが立ち上がる。
副作用として、本研究は「尾行していない」ことを示しただけで、「どう探しているか」までは解明していない。社会的情報伝達 (集団内コミュニケーション) や、過去のオオカミ縄張りに基づく予測的な地形利用など、複数の代替仮説が並走することになり、決着までには更なる行動追跡 + 認知実験の組み合わせが必要となる。
ニュースの詳細
研究チームの仮説検証の方法は、(1) GPS 追跡されている 20 頭のオオカミ、11 頭のピューマ、69 羽のワタリガラスの移動経路を 2.5 年間にわたって比較する、(2) 死骸への到達速度と移動経路の一致度を測定する、(3) 利用場所の選好を分析する、というもの。結果として「ワタリガラスがオオカミを長時間にわたって追跡した例はほぼ 1 回」だったが、観察されたオオカミの獲物のほぼ半数でワタリガラスが死後 7 日以内に到達していた。彼らがどのように死骸の位置を見つけているかは続報セクションで詳述される。
キーワード解説
ワタリガラス (Common Raven, Corvus corax) とは、カラス科の中でも大型の鳥類で、北半球の高緯度地域に広く分布する。食料の隠し場所を記憶し、互いに観察し合うなどの高度な認知能力で知られる。
スカベンジャー (scavenger, 腐肉食動物) とは、自分で獲物を仕留めずに死骸を食べる動物。生態系において栄養循環を担い、ハイエナ・ハゲワシ・カラスなどが代表例。捕食者と死骸を共有する「死骸ネットワーク」の中で動くことが多い。
イエローストーン国立公園 とは、米国ワイオミング州を中心とする世界最初の国立公園 (1872 年指定)。1995 年のオオカミ再導入以来、捕食者-被食者-スカベンジャーの三者関係を長期観察できる稀有なフィールドとして、行動生態学の主要研究対象となっている。
ピューマ (Puma concolor) とは、北米から南米に広く分布する大型ネコ科の単独行動性肉食獣。オオカミと同様に大型獣を狩るため、死骸を介してスカベンジャーと食物網を共有する。